滋賀県三大美味 その1鮒ずし

 今治の美味については前に紹介しましたが、こちらに来る前に住んでいた滋賀県にも美味しい食材が沢山あります。中でも「鮒ずし」「近江牛」「鴨」は全国的に有名です。

 最初に鮒ずしについてお話ししましょう。鮒ずしは昭和60年代頃までは滋賀県の多くの家庭で漬けられていました。現場に来る作業員さんが弁当のおかずに「自家製鮒ずし」を入れてきて、分けてくれた時は「一緒に酒が飲みたいな」とか言いながら機嫌よくいただいていました。何かの御礼に鮒ずしを貰うことも多々ありました。

 しかし、材料のニゴロ鮒の漁獲減による価格の高騰、手間をかけて作る人の減少、食生活の変化などにより、鮒ずしを作る家庭は激減し、今では業者が作るものが一般的になりました。「鮒ずしの臭いはきつい」と言われますが、それは製造過程で雑菌が入るからで、業者の作ったものは品質管理がよいので「きつい臭み」はありません。しかし、ほのかな香りしかしない業者の鮒ずしは私には「お上品すぎて」頼りなく感じます。

 鮒ずしの価格は滋賀県ではそこそこですが、美食の都「京都」に運ばれると大変高価な酒肴になります。京都市内の大学に就職したばかりの友人と祇園の居酒屋に入った時、彼が「鮒ずしを注文する」といいだしました。メニューに値段はなく「時価」と書いてあるので、不安になり、強く引きとめたのですが、「初めてだし、どうしても食べる」と酒の勢いで注文してしまいました。出てきたのは向こうが透けて見えるような薄い切身五切!!、値段はなんと五千円!!!、1枚千円もしたのです。

 こんな高い鮒ずしは御免ですが、私は鮒ずしほど日本酒に会う酒肴はないと思います。日本酒はどんな辛口でも、かすかな甘みがあり、杯を重ねると口の中がべたついてきます。しかし、鮒ずしの強い酸味はそれをさっと消してくれるのです。鮒ずしが日本酒の風味をぐっと引き立ててくれることは間違いありません。

 ―冬の夜、「冷蔵庫に入れると中の食品全部に臭いが移ってしまうついてしまう」くらい強烈な臭いの「自家製鮒ずし」を肴に「白磁の杯」に「刈穂」を注いで静かに飲む―

 こんな幸福な夢をみました。夢で臭いがするかって? うーん、不思議なんですが、ちゃんとするんですね。ほんとに!!