2019年5月

 日々の出来事や写真、過去の小文、その他諸々を取り上げます。
 表題はホームページのタイトル候補だったのですが、咽(喉の上の方)、喉(喉の下、首のあたり)ということで落選しました。しかし因業に音が同じなので、わがままでかたくなな性格の自身にふさわしいと思い表題に復活させました。

灘黒岩水仙郷を訪ねて

投稿日:

 平成の初め頃「神戸新聞」に「厳寒の2月、風雪の浜坂港で松葉ガニの水揚げを見とどけてから車に飛び乗り南下を開始、夕方明石につき一泊、一番のフェリーで淡路に渡りさらに南下、昼前ようやく黒岩水仙郷に到着すると、陽光を一杯に浴びた南向きの斜面には香しい水仙が絨毯のように咲き誇り、蝶が舞い南国のような暖かさ、兵庫県はなんと広く、気候の差が大きいか実感する」というルポ記事が載りました。
 当時、浜坂から明石に行くには、県道で湯村温泉を経由し、国道9号線の春来トンネルを抜け、村岡、関宮、八鹿、和田山を通って生野町でようやく「播但連絡道路」に入り「福崎インター」から「中国道」に移っても「滝野・社インター」ですぐに一般道に降り、渋滞の多い175号線を進むしか道はなく、明石到着後、夜のフェリーで、淡路に着いても、水仙郷のゲートが開くのは朝9時なので、明石か神戸で一泊し、翌朝淡路に渡ったのでしょう。
 この記事はずっと頭の片隅に残っていたのですが、今冬ようやく「冬のうんと寒い日に水仙郷で地上の楽園を体験する」機会が訪れました。
 1月末、寒い日曜日の朝、三宮から福良行きの高速バスに乗車し、かつては航路しかなかった明石海峡を一跨ぎ「西淡三原インター」で一般道に降りて、南あわじ市に入ると玉葱畑の中に「レディ薬局」や「スーパー・マルナカ」などがあり四国の近さを感じます。
 昼前に到着した「福良バスターミナル」は福良港と道を一つ隔てた「旧淡路交通鉄道線福良駅」の跡地を利用していました。
 小生は50年以上前、家族と渦潮見物に行った帰り、同駅に立ち寄ったことがあり、当時「淡路鉄道」は健在で「福良駅」も機能していたのですが、残念ながら駅前のバス停からバスに乗車し洲本に向かうことに・・。

 その数か月後、同鉄道は廃止されたので、もし乗車していれば、鉄子や鉄男達に自慢話ができたのですが・・・。
 さて、当日は神戸ほどではありませんが、南国淡路とは思えない寒さで、空には灰色のちぎれ雲が北風に乗って流れ、港内も波立っていて魚影はありません。
 寒空の下、港のバス乗場で1時間ほど待っているとようやく「黒岩水仙郷」行のマイクロバスが到着、休日ということもあり、補助椅子を出すほどの満員になり出発。国道28号線を一旦洲本方面に戻り、八幡の交差点を右折、淳仁天皇陵を過ぎ、論鶴羽山脈を越える急坂に差し掛かりました。
 窓の外の木々の枝が大きく揺れているのを見ると北風は港より強そうです。
 ところが峠を越えた途端、風は嘘のように収まりました。海は縮緬皺に凪いで、雲の切れ目からは光が注いでいます。
 北風を見事にシャットアウトした同山脈の防風壁ぶりに驚いている間にバスは峠道を下り切って左折、海沿いの県道をしばらく進むと「おのころ島」のモデルといわれる沼島が見えてきました。

 連絡船が出る「土生港」を過ぎると、小さな魚港があり、3~40m沖合に大きな桶が四つ並んで浮いています。
 やがて右端の桶のそばに海女さんが浮かんできましたが、獲物はなかったらしく息継ぎだけしてすぐ潜ってゆきました。
 防波堤に海鵜が20羽くらい等間隔で並んで桶の方を見ているのは、おこぼれを狙っているのかもしれません。
 小さな岬を回ると、また沖合に四つの桶が・・。南淡路の海女さんは4人でチームを組んでいるのでしょうか?近くの防波堤には同じように海鵜が並んでいます。
 冬の太平洋とは思えない春の瀬戸内のような光景に見とれていると「黒岩水仙郷」の「水仙畑」が見えてきました。
 神戸新聞の記事には「畑は南向きの斜面にある」記されていましたが、目の前にある「畑」の立地場所は「斜面」というより「崖」です。

 程なくマイクロバスは「水仙郷」に到着し、入口ゲート東側の「バス専用駐車場」に停車。一番先に下車し、ゲート脇の案内図で、バスから見えた「海に面した崖」は見学コースの最後になることを確認してから、ゲートを抜け、小さな谷間に造られた道を順路に従って進んで行くと「一般車両用の駐車場」がありました。
 その西側にある水仙が一面に咲く「谷に面した崖」の「九十九折れの山道」をたくさんの観光客と一緒に登るのですが、辺りには「濃く」「きつく」「神経が麻痺するのではないか」という「恐怖感を抱かせる」ような「水仙の危険な香り」が漂っています。
 香りに酩酊しそうになりながら崖の山道を登りきると展望台があり、谷底を見下ろすとマッチ箱のように小さい車が駐車場に並んでいました。
 帰り道がある「海側の崖」の向こうに見える沼島は雲の切れ目から射す光に輝やいていて、神の島にふさわしい神々しさにあふれています。
 展望台では風景写真を沢山撮り、ベンチで十分寛いでから「海側の崖の山道」を足元に気を付け、手すりを伝って慎重に降り、水仙の香りに見送られて、下界にたどり着くと、簡素の建物の二階に食堂があってので、入店し、少ないメニューの中から「にゅう麺」と「蛸のから揚げ」を注文し、海を眺めながら食事、一階の土産屋で「日本水仙の鉢植え」を買うと、帰りのバスの時間まであと僅か!
 駐車場に急ぎバスは乗り込むとすぐに出発。海は相変わらず凪いでいますが、海女さんたちはお昼ごはんに帰ったようで、桶はなく、海鵜達も消えていました。
 そんな海を眺めているうちにぐっすり眠ってしまったようで「間もなく福良港です」のアナウンスで目覚め、慌てて荷物を網棚から降ろす間もなく、バス乗場に到着し、ドアが開いた途端、冷たい風が車内に吹き込んできました。

 下車して空を見上げると灰色の冬空を雲が北風に乗って流れています。
 水仙郷で過ごしたひと時は、水仙の香りに酩酊して見た「春の夢」だったのでしょうか?
 いやいや、彼の地で買った「鉢植え」があります。「地上の楽園」は間違いなく存在していました。諭鶴羽山脈の彼方、神の島の近く、冬を知らない里に。

谷に面した崖

                  

神の島 沼島

                  

海側の崖