私と京都(1) 「いけず」の本当の意味

 私は、30代から50代にかけて大津市に住んでいて、仕事や遊びで数えきれないほど京都市内に出かけました。しかし、何回行っても駅から町に出た瞬間、緊張から自然に背筋が延びてしまいます。その理由はおいおいお話ししてゆきますが、今回は第1回目ということで怖―いお話から。

 

 京都弁で「いけず」という言葉があります。単なる「意地悪」を指す言葉だと思っている人はいませんか?いえいえ実は大変奥が深い恐ろしい言葉なのですよ。ある少女が体験したエレベーターの話をいたします。

 ある日、京都市内に住む某奥様は、御歳暮を贈るため小学生の娘を連れて市内のデパートに出かけました。1階からエレベーターガールのいないエレベーターに乗り目的階のボタンを押しました。その時、くたびれた背広を来て、いかにも加齢臭の漂ってきそうな小父さんが急ぎ足でエレベーターに向かって歩いて来たそうです。女の子がふと母親を見るとその手は「閉」のボタンを繰返し押していました。

  ここまでなら単なる意地悪おばさんの話ですが、続きがあります。

  さて、母親は一生懸命、「閉」のボタンを押したのですが、なぜかドアはそのままで、小父さんがエレベーターに乗り込んだ途端、急に閉まったそうです。小父さんは母親が「開」のボタンを押し続けてくれたと思い。「すんまへん」と礼を言いました。

 すると母親はにっこり笑って「よろしゅうおしたなあ、間におうて」と、さも「開」のボタンを押し続けていたように装ってこたえました。女の子は「お母ちゃんて、いけずやわー」と思ったそうです。

皆さん、分かりましたか?

  「いけず」という言葉の本当の意味は、「相手に自分をよい人間と思わせておきながら、頭の中では相手を破滅させる策略を巡らし、気づかれないように実行する」ことなのです。なんと恐ろしいことでしょう。「貞子」より怖いです。