後生恐るべし

 一時在籍していた博物館の小学生向けイベントの一つに「夏休み自由研究相談」がありました。初回実施前に想定していた内容は、

①「夏休み自由研究」をやりたいけれどもテーマが決まっていない子には、学芸員がテーマを探してあげる。

②テーマが決まって、実施している子の質問に答えたり、アドバイスをする。

 の二項目で、当該館学芸員の守備範囲である「歴史」や「美術」の自由研究に限定して相談を行うことにしました。

 8月初めの相談日、何人かの子供が親と一緒にやって来ましたが、そのうち3人は、専門家もびっくりのテーマで研究を進めていました。

 さらに、新学期までまだ時間的余裕があるのに3人とも研究の骨子は出来ていて、当日は発表の予行演習をするつもりで来たようでした。

 その自由研究の内容を簡単に紹介します。

①5年生男子 「宗派の本山の立地と教義の関係」

 天台宗や真言宗は山上に本山があるが、両本願寺は町中にある。これは宗派の教義の違いがそうさせていると思うので、各宗派の関連本を読んで教義の違いを調べている。

②6年生女子 「消しゴムの生産と流通」

 自分が文具店で買った消しゴムの生産と流通について調べたかったので、「文具店」→「問屋」→「船会社」→「中国の生産工場」全てを訪問し、聴き取りを行い、中国の生産工場の前で記念写真を撮ってきた。

 *娘の願いを聞き入れ中国まで一緒に行ってきた父親の笑顔が印象的でした。

③5年生男 「県内城郭の石垣調査」

 県内の城跡の石垣について調べ、石の組み合わせの様子を図にした。

 *母親が「子供と一緒に城跡に行く内、私も城好きになりました」と嬉しそうに話していました。

 さて、この3人以外に私が会った恐るべき小学生をあげると、博物館付属図書室の本を読みに来ていた5年生の女の子は、「源氏物語」全てを暗記し、次に「枕草子」の暗記に取り組んでいました。また、遺跡現地説明会の見学に来ていた5年生の男の子は、歩測(自分の歩幅の寸法を覚えておき、歩いた歩数によってA地点からB地点までの長さを測る方法)を覚えて城址の「縄張り調査」をしているそうで、自分で作成した「縄張り図」を幾つか見せてくれました。

 「後生恐るべし、願わくば、この子たちが受験勉強や級友との人間関係などにより才能の芽を摘まれることなく、立派な研究者に育ってほしい」と思うばかりでした。