恐怖の質問タイム

 滋賀県の外郭団体の発掘調査部門や博物館部門にいた頃、小学生が遺跡や博物館の見学に来ると、職員の説明を一通り聞いた後、たいてい「質問タイム」があります。予どもゆえの先入観のなさと純粋さで物事の本質に迫るような厳しいことを聞いてくるので、答えに詰まり立ち往生することも多く、何時も早く終わればいいのにと思っていました。

 湖北地方の山の中で古墳の発掘調査をしていた時です、小学生5・6人が先生に引率されて見学に来ました。古墳全体や出土土器の説明が終わると案の定「質問タイム」の始まりです。最初の質問「なぜ古墳は山の中にあるのですか?」で早くもしどろもどろになってきました。「平地は家や田んぼにするために山の中に古墳をつくります」「石室を作る大きな石が山には多いから・・・」とか、説明しながらどんどん自信がなくなって行くのが分かります。しかし、その後は「邪馬台国はどこにあるのか?」「埴輪の起源」などと、何とかかわせる質問だったので気持ちも落ち着いてきました。

 しかし、私の日頃の行いが悪いからでしょうか、やっぱり、最後の男の子の口から出たのです。

 「古墳はなぜ盛り上がっているのですか?」

 聞いた瞬間、頭の中が真っ白になりました。「ああ、君、それを言ったら、もうおしまいや。‐古墳がなぜ盛り上がっているか?‐やて、その研究に取り組んだ考古学者が何人いると思うんや。でも、いまだ定説はないんよ。1000年に一人生まれてくるかもしれない天才考古学者でもその質問には的確に答えられへんわ。わーん(泣)」

 質問の衝撃のあまりの大きさに「なんと答えたのか」だけではなく、「その日のその後の記憶」まで吹っ飛んで、消えてしまいました。これが私の経験した最も恐ろしい質問です。