バードウオッチングに行って犬を食べる話

 以下は中国旅行に行った時、添乗の中国人ガイドから聞いた話です。

 

    冬になりたくさんの渡り鳥が長江中流にある翻陽湖に渡ってくると、日本を含む世界中のバードウオッチャー達も待ってましたとばかりに湖岸の町に押し寄せてきます。私(ガイド)も日本からのバードウオティング団体をいくつか担当します。どの団体の皆さんも渡り鳥をこよなく愛する人たちで、当然、ハンターを大変憎んでおり、狩猟の話を聞いただけで涙ぐんでしまう女性もいます。

 団体の1日のスケジュールは、毎朝4時に起床、揚げパンとコーヒーの軽い朝食の後、ホテルをバスで出発し、夜明け前には岸辺の駐車場に到着します。バスから降りると皆それぞれの観測ポイントに散ってゆきますので、私はバスで一旦ホテルに戻り、お昼になると弁当を届けに行きます。駐車場には仮設トイレと休憩所のプレハブがあり、三々五々集まってきたウオッチャー達はプレハブで弁当を食べると、またそれぞれのポイントに行って日没まで観測するので、夜になってから迎えに行きます。この繰返しが一週間から二週間続きます。

 不測の事態が起きて現場に急行すること以外、仕事は送り迎えと弁当配達だけで、待機時間中は昼寝や、散歩をして暇つぶしする、ガイドにとっては大変楽なツアーです。

 ある夜、バスでホテルに帰る途中、一人の男性客が「鳥の観察は楽しくて時間を忘れてしまうが、体が冷えるのはきついよ、ガイドさん何か体の温まる食べ物はないか?」と聞くので、「犬を食べると体が温まるよ、犬料理店に寄りましょうか?」と提案しました。お客さん中には効能を疑う人もいたのですが、「体が温まる」という魅力的な言葉に負けて、寄道し、犬料理を食べたところ、翌日は全員体の芯が温かく、手足も冷えず、快調に観察ができたので、この団体は、毎年、まず「犬料理」を食べてからバートウッチングに行くことが恒例になりました。

 

  さて、皆さん、野鳥が撃たれることに涙を流す人たちが、犬を平気で食べるという話になにか違和感を持ちませんか?

 

  私もそのことをガイドに質問したのですが、ガイドは、「バードウオッチャーから見て、憎むべきハンターの命令で、撃たれて水に落ちた野鳥をくわえて戻ってくる犬はハンターの同類なので、復讐のために犬を食べた」と説明をしました。(*因みにこのような働きをする狩猟犬は「回収犬」と呼ばれています。プードルも元は回収犬で、むくむくした毛は水に浮きやすくするためのものだそうです)

 特定の働きをする犬が嫌いだから、犬料理を食べて復讐するというのは極端な意見で、バードウオッチャー全てが「犬嫌い」というわけではないでしょう。「猟犬だけ嫌いな人」「猟犬を操るハンターが嫌いな人」「野鳥も犬も両方好きな人」「犬料理屋で出る肉は食用犬のものなのでOK」などいろいろな意見を持つ人がいると思います。

 バードウオッチャーに「犬に対する気持ち」について質問してみたいとは思っているのですが、残念ながら知合いにこの趣味の人はおらず未だ聞く機会がありません。