3.ヒアリング(その2)  -ヒアリングでの約束は何処へ-

平成10年代のある年

 上司は「年度初めの形式的なヒアリング」の終了後「近々同僚のA君に現場を任せるつもりだ」と、話しました。

 「A君は年も若く、現場経験も多くないので、一人では不安があります。まだ担当現場が決まっていない私がサポートに行きましょうか?」と提案したところ「A君は随分成長してきたので、一人で大丈夫、行く必要は全くない」とのお言葉。一抹の不安を感じながらも「分かりました」と言って引き下がりました

 程なく私の現場も決まり、現地調査に入った矢先、上司から「A君が行き詰って現場管理が出来なくなった。応援に行ってくれ」との連絡。

 「自分の現場が始まっているので無理です」と断わったところ、「君の現場には代わりの人間を行かすから」と言うので、「代わりは誰ですか?」聞いてみると「A君よりもさらに若く、たよりないB君」の名が出たので、「私の現場をB君に任せることは絶対できません」とA君のサポートは断わりました。その後、A君は何とか一人で立ちなおり、調査も軌道に乗ったことを仄聞しました。

翌年

 昨年度と同じ上司による「年度初めのヒアリング」で「君は今年度、事務所に在勤し、現場に行くことはない。事務の手伝い、整理調査、データ整理をせよ」との命令がありました。昨年のこともあるので何度も確認すると「そんなに僕の言っていることが信じられないのか」と怒らせてしまいました。

 翌日、事務所にはいつもよりうんと早く出勤。机を仕事のしやすいように配置し、パソコンのデータを整理、関係先に挨拶をして、内業を開始しましたが、案の定2か月後、「すぐ現場に行ってくれ」との上司からの電話。「ヒアリング時の命令」をあげて断ると「今回だけ頼む」と言います。それでも強硬に断ると、なんと重役が説得に来ました。

 私は「かたくなな人間」ですからへそを曲げてしまうと、重役であっても言うことを聞きませんが、「重役命令」に逆らってしまったわけですから当然処分が下るだろうと、首を洗って待っていたのに1か月たっても2か月たっても音沙汰がありません。

 「いったいどうなったの?」と思い手蔓を頼って調べてみると、当該現場には役所から派遣された「気難しく、口うるさい業務管理者」がいるそうで、「御機嫌を取るために調査員を加配した方がいいだろう」というアイデアを重役が考え「年長者で不手際がなさそうな小生を行かせるように」と上司に命じたのが、今回の騒動の発端だったようです。

 ところが、小生抜きの現場が始まってみると、管理者は昨年度と打って変わり、いつも上機嫌で、調査もスムーズに進捗するので、加配話はすぐに立ち消えになったそうです。

翌々年

 件の上司は栄転し、私より大分年下の上司がやってきました。年度初めのヒアリングでは「あのー、遠隔地の現場や長期の現場はお嫌いでしょうか?」と緊張しながらも丁寧な口調で質問します。

 「遠隔地でも長期でも何でもやりますよ」と言うと少し安心し「正直言って、気難しい方だと聞いていましたから」などと言うところをみると「小生は上司の言うことを聞かない厄介者」という悪評が広まっているようです。

 「昨年度や一昨年度のことは、上司の筋の通らないやり方に抵抗しただけで、年度初めに変な約束をせず、派遣命令を出していただいたなら、発掘調査だろうが、整理調査だろうが、分布調査だろうが、遠隔地だろうが、海外だろうが、天体だろうが、すぐに準備して出発します」と答えました

 上司はまだ不安そうな顔をしていましたが、その年度は、喜ばしいことに何の問題もなく、無事に終えることが出来ました。