居酒屋の話

 大津市に住んでいた独身時代は、給料が入ると「祇園」や「木屋町」「先斗町」などの「高級居酒屋」で一合数千円もする銘酒を何杯も飲み「鮒鮨」なんぞを食するという「豪遊?」を繰り返していましたが、今治単身赴任時代になると光熱費が自宅と下宿の2箇所分になり、帰省旅費の出費も大きく、必然的に大衆的な居酒屋が行きつけとなりました。
 そこに通う中で確立してきた「居酒屋ルーティン」を御披露することにいたしましょう。
 まず、居酒屋に行く人数について。複数で行くと「対酌して山花も開き」楽しいのですが、返杯を繰り返したあげく二日酔になることが度々あったので、自分のペースで飲み、許容量も守れる「御一人様」で行くことに。
 「大将」や「女将さん」が「アテ」や「酒」に関する質問に親切に答えてくれるのはいいのですが、客に「世間話」や「愚痴」を無理に聞かせるのはNG。

 馴染みの居酒屋の大将は余計なことは一切言わず、黙々と「アテ」を作ってくれるので理想的でした。

 開店直後のあわただしさもなく「大将」の包丁さばきもより冴えてくる「19時半過ぎ」くらいに暖簾をくぐります。
 カウンターに陣取ると目の前に並ぶ「アテ」や「おかず」の入った「大皿」や「鉢」を全部チェックし、好物の「南蛮漬」「ぬた」があるとまず注文。

 馴染みの店は海鮮が自慢なので「刺身盛合」は必須ですが「天然ウナギの蒲焼」「マナガツオ刺身」など珍しいメニューがあった場合は追加注文することも。

 日頃は野菜をとり、DHAの多い魚を食べ、炭水化物を控えたりして健康を気遣っているのですが、酒が進んでくると「居酒屋にはたまにしか来ないし、ええか」ということで、コロッケやカキフライ、サイコロステーキなどカロリーが高く、中性脂肪値が亢進するような体に悪い「アテ」を注文する傾向があります。

 かつては日本酒一本やりでしたが、50歳を過ぎた頃から、キープしておいた安い焼酎に、体調に合わせて水を差し、濃さを調整する「湯割」「水割」を好むようになりました。

 酒が進み、陶然としてくるとなぜか耳の感度がよくなり、意識して耳を澄まさなくても、店内の酔客の話が自然に耳に入ってきます。 
 大抵が上司や同僚の悪口ですが、中には「釣り好きが高じて百年続いた会社をつぶしてしまった若社長の話」
 「業界No.1の優良会社を率いて近代経営の見本のように言われる創業者がつまらない失敗で度々会社を危機に陥れたことを隠している話」
「地元の有名な寺の住職で教育委員もしているお坊様が夜の帝王と言われているほど歓楽街で豪遊している話」など、ちょっと得した気分にさせる新知見を得ることもあります。

 好みの「アテ」も食べ終わり、酒量もそろそろ限界点を越え「終バス」の時間(今治では21:00頃)が迫ってくると、勘定をすませ退散します。店内滞在時間は45分から1時間弱くらいでしょうか。
 なぜ「バス」かというと「行き」は元気で歩いても「帰り」は酔って足取りは重く、また夏の暑さ、冬の寒さにさらされることなく帰宅できるからです。

 ところで、件の居酒屋には「麺類」「ご飯もの」などの「シメ」のメニューもあるのですが、大将の「シメ」に注ぐ情熱は「アテ」に比べると、不足がちなので注文しません。
 かといって「シメ」の王道と言われる「ラーメン」は50代の胃にはもたれるので、バス停近くのスーパーで「日本そばのカップ麺」を買い、帰ってから「シメ」として食べます。
 単身赴任時代は、月に何度も居酒屋通いをしていましたが、定年退職して同居生活になると、妻と「レストラン」などに行く機会が増え、年数回程度に激減しました。
 しかし、上記の「ルーティン」はしっかり身についているせいか、たまの機会に入店した初めての店でもつい実行してしまいます。