トトロと纏向遺跡

 考古学を学んだ人や遺跡発掘に携わる人に「トトロ」好きが多いのは、サツキとメイの父親が大学の考古学研究室に勤めていることに親近感が湧くからではないでしょうか? 私も毎年のように放映されるテレビ放映は必ず見ます。

 さて、姉妹の父親は沢山の専門書を持っていて、それらは度々画面に登場しますが、その中でも一番気になる本は『纏向(まきむく)』です。これは昭和51年(1976)桜井市教育委員会が刊行した桜井市纏向遺跡の発掘調査報告書で、B5判・2分冊・箱付き・幅約15cmの堂々たる体裁の(復刻版報告書を除くと)当時としては最も分厚い報告書でした。纏向遺跡は、邪馬台国の都の最有力候補とされ、毎年、発掘調査が実施されています。しかし、同書の文中では邪馬台国についてほとんど触れられず、弥生時代末から古墳時代初めの「遺構」や「土器」について重点的に報告されていました。

 ところで、彼は住環境や言葉から関東の大学の研究者と考えられますが、何のために『纏向』を読んでいたのでしょうか? 上記のことから邪馬台国研究のために読んでいたと考えるには無理がありそうです。巨木に神が宿ることを子供に教えたり、トウモロコシの文字を見て超常現象に理解を示したりするなど「原始信仰」や「精神世界」に興味を持っているようなので、同書で報告されている弥生時代末から古墳時代初めの「まじない」や「まつり」に係る土器の項目を読んでいたのかもしれません。

 『纏向』は当時の定価が2万円くらいしました。(今でも古書店では1万円くらいで売っています)私も大学生の頃は、欲しいけど、高根の花でした。同書の刊行時期と「トトロ」の時代設定(昭和30年代)とは合っていません。しかし、宮崎監督があえてこの本を映画に登場させたのは、その堂々たる風格と高級感が「大学の研究者が読むのにふさわしい本だ」と思わせたからではないでしょうか。