東京メディア

 阪神・淡路大震災の折、東京からは筑紫哲也氏、久米 宏氏、安藤優子氏ら一流のテレビキャスターが被災地を訪れ、リポートしました。

 キャスターや放送スタッフは中継が終わると帰京します。家に帰り、風呂で疲れを癒し、酒でも飲みながら「いやあ、神戸はすごかったよ」などと家族に話すこともあるでしょう。しかし、同時刻、被災者たちは風呂や暖房のない悲惨な境遇に置かれているのです。

 実は私も神戸の実家で被災したのですが、職場も住まいも滋賀県だったので、地震後しばらくして滋賀に戻りました。度々休みを取って、帰郷し、後片付けの手伝いをしましたが、滋賀県では風呂にも入ったし、酒も飲みました。後ろめたい思いが離れず、心の中で何度も詫びました。

 シリア内戦のドキュメンタリー番組で特派員が日本に帰国する時、別れに集まった地元の人々が羨望と悲しみが入り混じったなんともいえない表情をしていたことが、大変印象に残りました。帰京を見送る被災者の中にも同じ表情の人がいたと思います。

 東京メディアのキャスターやアナウンサーが災害報道を行う時「この悲惨な状況を全国に届けることが我々の使命です」などとよく言われます。しかし、「悲惨な状況」をきめ細かく長期間にわたり取材・報道するのは被災者と同じ境遇で活動する地元メディアです。東京メディアの皆さんには、報道に先だち、まず自分の幸せに感謝し、被災者に思いを寄せから、 崇高な使命を全うしていただきたいと思いますが、いかがでしょうか?