嫌いな言葉 「大丈夫?」

   『新明解国語辞典 第7版』による「大丈夫」という言葉は本来、

「金銭の誘惑に負けたり、権威に屈したりしない、志の高い男子」

という意味があるそうです。

 まさに現在では「絶滅危惧種」というべき存在ですが、そこから転じた「大丈夫」の一般的な意味は、

①「危険や損失・失敗を招くおそれがないと断定できる状態※例(「この建物なら地震があっても大丈夫だ」「彼に任せておけば大丈夫だ」等)

②「良い結果になることを受けあう様子」※例(「大丈夫、君なら成功するよ」「なに大丈夫明日は晴れるさ」等)

の2件があげられていて、このような使い方は妥当で、問題はないのですが、

「大丈夫?」「大丈夫ですか?」

のように「疑問形」として用いられると、途端に相手に不快感を与える悪しき言葉になってしまうのはなぜでしょうか?

 取りあえず、その使用例をあげてみます。

①体調が悪い上にその日に限って仕事が超多忙で疲労困憊し、ようやく家にたどり着き玄関を入った時。

 出てきた家人に

「大丈夫?」

と聞かれた時、

「このぐたぐたな状態を見てよく『大丈夫か?』と聞けるな。お前の目は節穴か」

と、怒りがこみあげて来ませんか?

「えらいしんどそうやないの?」と率直に言ってくれた方が腹も立たず、素直に心境を吐露できると思うのですが。

②AEDの講習会に出た時

 「倒れている人を見つけたら駆け寄って、肩のあたりを叩きながら『大丈夫ですか?』と3回呼びかけてください」

と、教えられましたが、「意識朦朧状態」か「無意識状態」で倒れている「大丈夫ではない状態」の人に「大丈夫かどうか」3回も確認する必要があるのでしょうか?

 万が一、呼びかけが功を奏して奇跡的に意識が戻ってきたとして、もし患者が私なら「大丈夫ですか?」につられて「大丈夫です」と言ってしまいそうな気がします。

 この「大丈夫ですか?」は病人に「カラ元気を出すことを強要するよう」に思えることもあり、好きになれません。

「私の声が聞こえますか?」「肩を叩いていますが感じますか?」

と、端的に聞く方が適切だと思うのですが。

③コンビニやスーパーのレジで支払いをする時

 「小銭があるからちょっと待って」と銭入れを探し始めた途端、店員に「大丈夫ですか?」と言われると、

「たしかに小生は手先の動きが遅いかもしれないが、小銭の中から1円玉を数枚選り出すことぐらい数秒でできるわい」

と怒りがこみ上げてきませんか?

 以上の使用例から見て「大丈夫の疑問形」は、

・単なる気休め

・相手の「否定」を期待しての言葉かけ

・相手の「肯定」を期待しての言葉かけ

の、三つに分類されるようです。

 しかし、実際に使われた「大丈夫の疑問形」が、「三つの内どの意味なのか」は、「当事者を取り巻く状況や発言者の語調から類推するしかない」という、「京都弁」のような難解さがあり、そのことが聞き手に誤解を生じさせる原因になっています。

 そんなことを考えながら車を運転していて、ガソリンスタンドに入り、店員に

「満タン、現金で」

と告げると、

「はい、現金満タン、OK」

と元気な返事まではよかったのですが、一呼吸おいて

「吸い殻、ごみ大丈夫すか?」

とのご質問。

 御心配なく、私の「吸い殻」も「ごみ」も健康そのもの、大丈夫です!(怒り)