「よろしくお願いします」

 かつて「よろしくお願いします」という挨拶は、塾に入ることになった子供を連れて挨拶に行った親が教師に

「不肖の豚児ですが、どうぞよろしくお願いします」

と、頭を下げたり、弟子が師範に稽古をつけてもらう前に

「先生よろしくお願いします」

と、一礼する時など「願いごとの折に使われる挨拶」の一種でした。

 ところがいつ頃からか分かりませんが「営業に行って商談に入る前」や「対談やインタビューの冒頭」などに「双方が同時にこの挨拶を交わすような習慣」が生まれ。

例えば 

アナウンサー  本日のお客様をご紹介いたします。○×大学教授の△先生です。

(二人同時に)  よろしくお願いします。

-(間)

アナウンサー  それでは、まず最初に時事問題から話を進めてまいります。

と、いうように使われるようになりましたが、同時に発声するので、どうしても発生直後に「短い無言の間」が出来てしまいます。小生はこの「間が悪く」「間が抜けた」会話中断が大嫌いです。

 また「間の後、どちらが先に発言するか逡巡した挙句、同時に発声してしまい、お互い気まずい思いをする場面」も何度も見てきました。

 この「欠点の多い挨拶」に変わる「よい例文」はないかと色々考えたのですが、中々いいアイデアが浮かびませでした。

 ところが最近、テレビアーカイブスで昭和40年代テレビインタビュー番組を視聴する機会がありました。

冒頭の部分は、 

アナウンサー こんにちは。

ゲスト    こんにちは。

アナウンサー 本日お越しのお客様は、文芸評論家のA先生です。先生は長年、近代文

       学の研究に取り組まれ、多くの実績をあげられておられます。

       そこで、本日は近代文学の神髄についてざっくばらんにお伺いしたいと

       思います。

       それでは先生、まず明治時代初頭の文学について質問をいたします。

ゲスト    どうぞ、お手柔らかに(笑い)

と、なっていて「例の挨拶」がないので「間」も出来ず会話が順調に進行しています。

「これはよい」

と、この事例を参考に、初めは「例の挨拶」を排除した「例文」構成しようとしたのですが、うまくいかず断念。

 そこで「例の挨拶」を使っても「間」が出来ない「例文作成」に方針を転換し、ようやく出来上がりましたので、以下紹介します。

Aさん こんにちは

Bさん こんにちは

Aさん よろしくお願いします。

Bさん こちらこそ

Aさん それでは、早速ですが・・・。

 つまり、「よろしくお願いします」と同時に言うのをやめ、Aさんの「よろしくお願いします」を聞き終わってから、Bさんが「こちらこそ」と受けると「間」もできず、会話が途切れることがありません。

 早速実践してみると、この「受け言葉」は予想以上に上品に聞こえるようで評判も良いようです。

 一度この言葉を使ってみよういう勇気のある方はおられませんか?