滋賀県教育委員会の「外郭団体」に在籍していた頃、遠隔地にある県や市町村、各種団体の職員が「先進地視察」という名目で「施設」や「発掘現場」の見学に来ることが時々ありました。滋賀県の文化財行政は特に「先進的」とは思えないし、大抵忙しいさなかにやって来るので、迷惑この上ないのですが、上司の命令で仕方なく対応していました。
しかし、本当に大変なのは、滋賀県内でも「本当に先進的な」取組みを進めていた自治体で、次から次にやって来る「視察団」に忙殺され、日常業務が進まず、職員は困りきっていました。
さて、「先進地」とは、本来「他の自治体や組織が思いつかないような独創的で未来先取りの事業を立案し、困難を克服して実現させたところ」のことですが、そこを視察して学んだ「先進地事業」を「自分のところ」に導入しても、所詮「二番煎じ」で「先進地」を超えることはできません。
それより、まず「硬直化した役所や団体のシステム」の中へ「新たな事業を導入」すること自体が非常に難しく、「関係部局との調整」だけでも何年もかかります。
そんなことから、「A市の取組みは素晴らしいので、長期的な展望に立って、関係部局と調整、検討していくことが望まれる」などという「あたりさわり」のない「帰庁報告」を提出しただけで「終わり」になることが多く、「視察」が組織運営に生かされることはめったにありません。
では、何のために「公務員」や「団体職員」は他府県に「先進地視察」に行くのでしょうか?
実は「物見遊山」という裏の目的があるからです!!
私は「視察団」を車で宿まで送ってあげたことが何度かあります。その送り先のほとんどが県内でも一流の「旅館」や「ホテル」で、中には、夜の「宴会」の期待から車中で既に盛り上がっているグループもありました。
翌日の予定を聞くと「京都に行く」という答えがほとんどです。たしかに「京都」は文化財保護では「先進地」かもしれません。しかし、日程表に「視察先」として記載された「有名社寺」が何か「先進的」な取り組みをしているようには思えません。
また、ある「視察団員」から「安くて喜ばれる京都のお土産を教えてほしい」と聞かれた時は、つい愛想よく教えてしまいました。「そんなことあなたの本来の業務とは関係がないでしょう。教えません」と断った方がやっぱりよかったのでしょうか?