古語は生きている

・錦織(にしごおり)の反対言葉

 今から40年以上前の昭和50年代終わり頃、小生は大津宮推定地といわれていた大津市錦織遺跡の遺跡調査現場で、地元農家のおばさんたちと一緒に発掘のアルバイトをしていました。

 当時、現場監督がおばさん達に「きつめの仕事」を言いつけると、おばさん達はなぜかみんな揃って「やさし・・」と答えます。

 それを聞いた監督は「また錦織の反対言葉が出た。やさしは、きついということやろ」と言い返すのですが・・。

 私は「京都のぶぶ漬け」に類する地元特有の言い回しだろうと聞き流していました。     

 ところが先頃、たまたま古語辞典をみていて、古語の「やさし」は「痩す(やせる)」の形容詞形(シク活用)で、本来の意味は「身が細るようである。つらい」であることを知ってしまいました。

 錦織のおばさんの「やさし・・」は反対言葉ではなく、自分の気持ちを素直に表す言葉だったのです。

 しかし、この解釈については問題点があり、

 同辞典によると「やさし」の意味が「つらい」であるのは、平安時代中頃までで、平安時代末になると「優美である、上品だ、しとやかだ」という意味に変わり、さらに鎌倉時代は「けなげである、殊勝だ、感心だ」「情が深い、心が優しい」になり、江戸時代に至ってようやく「容易である」という意味が加わるとのこと。

 錦織では、平安時代中頃の言葉の意味を一途に守り続けていたことになりますが、果たしてどうなのでしょうか?

・おらぶ

 今治で仕事をしていた頃、大声で叫ぶという意味で使われていましたが、実は「ば行四段活用」の動詞で、万葉集にも出てくる大変古い言葉です。

 もとは泣き叫ぶという意味でした。

 四国地方全体で使われていますが、関西や関東では廃れてしまったようです。