行幸啓の話(その4)  後日談

 安土城考古博物館を無事出発された両陛下は、ホテルレークビワで御昼食をとられ、午後は琵琶湖栽培漁業センター、第一びわこ学園を御視察になり、琵琶湖ホテルに御宿泊されました。

 翌日の近江神宮御参拝で滋賀県内の行幸啓の日程は全て終わり、車列は逢坂山を越えて京都府に入り京都駅に到着、両陛下は京都駅から新幹線で次の御視察先である愛知県に向かわれました。その間、小石が車列の上を飛ぶことはなく、警備責任者の首も無事だったようです。

・恩賜のたばこ

 行幸啓の翌日、職員に「恩賜のたばこ」が一箱づつ配られたので、早速封を切ると菊の御紋章がプリントされたたばこが10本入っていました。

 小生は喫煙しないので、知り合いの町役場の係長にプレゼントすると部下の女性職員と共にありがたく押し頂いて一服したととたん二人共ひどくせきこみました。

 しばらくして回復した係長は「こんなきついたばこは久しぶりやハイライトちゃうか?」と言い、10分以上せきこんでいた女性職員は息も絶え絶えに「もういりません」と火を消しました。

 「恩賜のたばこ」はたばこの健康被害が広く周知されるとともに批判が増え、平成18年末に廃止されたそうです。

・思わぬ副産物

 行幸啓からしばらくして博物館、県庁、役場、警察の担当者が一堂に会して反省会が行われました。

 その席上、地元警察署の担当者から

「行幸啓前に安土山と観音寺山で不審者対策のために山中くまなく山狩りを行ったが、その際身元不明遺体が数体見つかった。遺体や周辺の状況からいずれも自殺遺体と思われる。現在、各地の警察署に行方不明者や犯罪被害者等の紹介を行っており、遺体の特定ができるかもしれない」

 という報告があったそうです。

・慰労会

 行幸啓が終わり11月になりましたが、11月は元々館の行事が多く忙しかったのでそれらが一段落した12月始めに行幸啓の慰労会と忘年会を兼ねて職員全員で芦原温泉に一泊旅行に行くことになりました。

 休館日前日の夕方、館員の数名が車を出し全員が分乗して博物館を出発、旅館に着くなり宴会に突入しました。一次会は和やかに行儀よくお開きになったのですが、カラオケスナックに場所を変えた二次会は普段生真面目な管理職達も次々リクエストし、酒も進み、大変な盛り上がりです。

 遅くまで飲みつかれた翌朝の朝食後、往路と同様車に分乗して帰路につきましたが、敦賀まで晴れていた空も県境を超えて余呉町に入った頃には冬の曇り空となり、木之元町ではワイパーを最強にしても前がよく見えないくらい激しい「しまけ」(時雨のこと)になりました。

 同乗の館長が「次は雪かな?」と言うと運転していた課長が「結構寒なってきたんで、次は雪になりますやろ」と答えます。

 さらに南下して虎姫町に入る頃に「しまけ」は止みましたが、姉川の橋の上から、うっすらと雪化粧した伊吹の頂を雲間に見た時「お山に三日雪が降れば、里に雪が降る」ということわざをふと思い出しました。(この項終わり)