受診の思い出(2)

2、チミツシン

 

 かかりつけの内科で渡される「粉薬」は子供でも飲みやすいように、少し甘みがついていましたが、美味とは程遠いものだったので、オプラートに包んで飲んでいました。

 逆に飲むのが楽しみでだったのが、一緒にもらう「喘息の飲み薬(チミツシン)」です。

 その臭いは強く、味もおいしいものではないのですが、甘味は結構あり、飲み慣れてしまうと何故かおいしく感じるようになる不思議な薬でした。

 冷蔵庫で十分冷やした薬瓶を食後に出し「瓶の側面に刻まれた1メモリ分の薬液」を慎重に計って湯飲みに入れ、ジュース感覚でゆっくり味わって飲むのです。

 ところで、当時祝い事や忘年会等で家族、親せき一同集まって出かける三宮の中華料理店があり、そこではいつもコース料理を頼むのですが、最後のデザートに出て来るのが大きなボウル一杯の「杏仁豆腐」で当時は「中華プリン」と呼ばれていました。

 もちろんケーキ屋さんで売られている一般的な「西洋プリン?」と違い「カルメラ」もかかっていません。

 「杏仁」の割合が多いのか、現在市販されているマイルドな杏仁豆腐と比べると「臭いも味も」強烈でした。そして何故かその両方が「チミツシン」のそれとよく似ているのです。

 「チミツシン」の主成分は「咳止め」「痰切り」の効果がある「杏仁(あんずの種)」であることを知ったのは、ずっと後のことだったので、当時は「咳止めの薬」と「中華料理のデザート」が同じ味なのはずいぶん不思議なことだと思っていました。

 近年、薬膳料理など漢方薬を用いた料理がもてはやされていますが、50年前から(おそらくもっともっと以前から)漢方薬は中華料理の材料として当然の如く用いられていたのでしょう。

 幼いころの「陰の思い出(受診)」と「陽の思い出(中華料理の会食)」に「杏仁」という共通項があったというお話でございました。(続く)