『古語大辞典』(小学館 昭和58年)に記載された古語の「絆(きづな)」は、
1.鷹や犬などをつなぎとめる綱
2.親子兄弟など断ち難い愛情関係を紐にたとえたもの
の二つの意味があり、1の用例は平安時代、2は鎌倉時代の文献に見られることから、かなり以前から「物質的結びつき」「精神的な結びつき」の二つの意味があったことが分かります
漢字の「絆」意味は元々「物質的な結びつき」だったようで、
『漢語林』大修館 平成十年 五版「絆」の項には
・牛馬の足をつなぐなわ ものをつなぎとめるもの 自由を束縛するもの
と書かれています。
和語の「きずな」について『新明解国語辞典』第七版 2012年刊行には、
1、家族相互の間にごく自然に生じる愛着の念や親しく交わっている人同士に生じる断難い一体感
2、何らかのきっかけで生じた今まで比較的疎遠であった者同士の必然的な結びつき
のように「精神的な結びつき」の意味があてられていて、「漢字」と「和語」の意味には違いがあるようです。
旧仮名遣いで「きづな」と書かれていた戦前は、語中の「つな(綱)」という言葉から、「語源」を推し量ることもできましたが、「四つ仮名の改悪」(昭和21年内閣第33号「現代かなづかい」により「ぢ、づ」と記されていた文字の多くが「じ、ず」に変わった) 以降は「きずな」と記され「語源」が分かりにくくなりました。
「きずな」は本来「結びつける」ということが第一義で、「悲劇的な結びつき」の場合にも使われていました。しかし、東日本大震災の年の「今年の漢字」に「絆」選ばれた頃から「絆」一字で「精神的な美しい結びつき」という意味に限定して使う傾向が強くなってきました。
歴史も古く、多様性もある言葉が本来の意味を失って狭い範囲に限定して用いられることが一般化していくことは良いこととは思えませんが、皆さんはどうお考えでしょうか?