佐賀県の民話です。
ある日、恵比須さん(関西風に「えべっさん」と呼ばせてもらいます)が、鯛釣りに行きました。ところがいつもはたくさん釣れるのにその日に限っては全く釣れません。そのうち夕方になったので、あきらめて納竿しようと思い、竿を上げかけると魚信がありました。
今までの暗い顔がとたんに恵比須顔になり「バラしては大変」と慎重に竿を上げました。ところが釣れたのはなんとボラ。今度は一転して鬼の形相になり、腹立ちまぎれにボラの頭を殴りつけました。それからボラの頭は「ぺったんこ」になってしまいましたとさ。おしまい、おしまい。
この御話は中々含蓄の深い話でして、確かにボラを上から見ると頭は靴ベラのように「ぺったんこ」です。横から見るとのっぺりしていて、体も下腹が膨らんだ中年太り体型で、全体の見栄えはよくありません。しかし、水面から1m近くジャンプするところを時々見かけるので身体能力は意外と高いのかもしれません。
また、真鯛とボラが一緒にいることは少ないのですが、チヌ(黒鯛)とボラは生息する水域が同じで、今治城の濠でも仲良く泳いでいます。そんなことから、チヌ釣りの外道でボラが釣れることも多く、チヌがかかったつもりで機嫌よくリールを巻いていた釣人もボラの姿が見えると「えべっさん」のように「怒る」か「がっかり」します。ボラは海底のヘドロを食べており、身が臭いので、食用にはむかないからです。
こんなボラでも産卵のために外洋に出たものには身の臭みがありません。刺身は血合いの赤と白身のコントラスがきれいで、知らずに食べると鯛と間違えるほどです。「えべっさん」がボラを釣ったのは港内の水の汚い場所だったのでしょう。舟で沖に出て釣ったボラなら喜んで持って帰ったに違いありません。