交尾二題

その①

 昭和40年代、私が小学生の頃、実家に「チビ」という雌犬がいました。雑種でしたが鹿に似た愛らしい顔の美犬で、近所の雄犬に人気があり、フェロモンに引き寄せられた野良犬が、高さ2mで上に釘が植えてある塀を乗り越えて、乱入してきたこともありました。

 ある日、脱走した「チビ」の大きな鳴き声が聞こえてきたので(チビは時々脱走しましたが、すぐ帰ってくるので家族は気にしませんでした)外に飛び出すと、驚いたことにチビと見知らぬ雄犬が、お尻をぴったり密着させて、一直線に「つながって」いました。チビは「つながって」いることが苦痛らしく「キャン、キャン」と悲しげに鳴いています。

 「これは大変なことになった」と思い、丁度その場にいた近所の男の子に、チビの首を持ってもらい、私は雄犬の首を持ち思い切り引っ張りました。しかし、何度、引っ張っても抜けません。「水をかければ抜けるかもしれない」と思い、金ダライに水を汲んできて接合部にかけてから、引っ張りましたが、どうしても抜けません。

 しかし、しばらくするとチビはこの状態に慣れたのか、鳴き止んでおとなしくなり、引っ張るのにも疲れたので、2匹をほったらかしにして家に帰りました。やがて、チビは雄犬と離れたらしく、夕方には戻ってきて、餌も普通に食べました。

 私は、夜になり帰宅した父に、なんでチビが「つなぎ犬」になったのか聞きました。父は「それはくっつき病だ」と教えてくれたので、「病気だったのか、でも治ってよかった」と後々まで信じていました。

その②

 滋賀県の財団法人に在職していた平成の初め頃、学校の夏休み中、当番日になると財団が主催する子供向け行事の手伝いに行くのが恒例となっていました。

 ある日、同行事(この日、私は警備係をしていました)で職員が遺跡の説明をしているのに、全く無視して虫取りに熱中している5年生くらいの女の子がいました。女の子はバッタを2匹捕まえると1匹ずつ手に持って、お尻をぶつけたり、こすり合わせたりしています。私は興味が湧いてきて、女の子のところに行き「何をしているの?」と聞きました。すると「バッタに交尾させてるの」、「なんで交尾させるの?」「卵を産むところが見たいから」、「バッタの交尾のことは学校で教わったの?」「図鑑で見た」と淀みなく答えてくれました。

 女の子と話した後、ふと「つなぎ犬」のことを思い出しました。私が子供の頃は大人でも「交尾」という言葉を使うのを恥ずかしがる「おぼこい」時代でしたが・・・。

 それにしても、とーちゃん!! いくらなんでも「くっつき病」は、ないやろう!!

 友達にもそう話してしまって・・・、ずっと後で赤面したよ、ほんまに!!