2006年8月、インドネシアのバンテンで実施された日本とインドネシアの共同遺跡調査に2週間ほど参加しました。帰国が近づいたある日の夕食後、インドネシア側の協力者であるインドネシア国立考古学センターの技師の皆さんと片言の英語で雑談をしていました。
その時、技師の1人から「日本の国歌は何というのか?」という質問がありました。「KIMIGAYOです」と答えると「歌って欲しい」と希望されたので、歌いました。するとさらに「歌詞の意味を教えてほしい?」と聞かれました。その時初めて「自分は君が代の内容を理解していなかった」ことに気づきました。
だからといって「全然分からない」と答えるのも日本人として「随分恥ずかしいことだ」と思い、頭をひねっているとあやふやな記憶ですが「巌(いわお)は、さざれ石からできた堆積岩ではなかったか」ということを思い出したので、さざれ石が巌になり、苔は生えるまでの過程を想像し、以下のようにまとめました。
①小さな石や砂(さざれ石)が川の流れに乗って下り海や湖に堆積する
②マグマが上昇してきて熱により変性し堅い石の層になる
③地震や地殻変動により地表に露出する
④雨によって浸食されたり、崩れたりして大きな塊、つまり巌になる
⑤やがて巌に苔が生える。
このことをつたない英語で身振り手振りを交えて説明し、最後に「最初から最後まで100万年ぐらいかかりますが、そのくらい長く天皇の命が続くことを希望するというのが、KIMIGAYOの歌詞の意味です」と言って締めくくりました。
皆さんには何とか歌詞の意味を理解していただいたようでしたが、今度は「この歌は何年前につくられたのか?」と聞かれました。「この歌が出来たのは平安時代の初め頃ですから今から1200年くらい前です」と答えると、質問者は「さすが日本はすごい!そんな昔から地質学の知識を持った人がいたのか」と感心しました。他の皆さんも頷いています。
「あれ! うーん? なにか少し違うような気がするんですが?? まあ君が代の主旨は天皇の長命を願うことなので、たとえ話がが少しずれてもいいことにしましょう」と自分を納得させました。
帰国して、早速さざれ石と巌について調べると案の定「過程①②」が違っていました。君が代に出てくる巌は正式には「石灰質角礫岩」という名称で、「石灰岩が水に溶けてさざれ石の間に入り、凝固して形成される」というのが正解で、形成過程でマグマの熱は必要なかったのです。また、きちんとした英訳文があることも分かりました。